この本は将棋棋士、先崎学(せんざきまなぶ)がうつ病になった時の話を本にしたものだ。
先崎学は将棋界、最高位の9段を持つ強豪で、いわゆる羽生世代。
かなりおしゃべり。文章を書くのが得意で、12年?くらい将棋の棋士のこととかを面白く連載してた。
ちなみにこの人。
3月のライオンの監修もしている。たしかに文章は軽くて上手くてかなり好きな感じだった。
内容
うつ病になった。
うつ病になった日を明確に言える人は珍しいが、彼は言える。
誕生日の次の日から体調が悪くなったからだ。
頭に石が入ったみたいに重く、朝起きるのがつらい。
日に日に寝つきも悪くなる。順位戦が近い時はメンタルが落ちることは過去にもあったのでそれだと思っていたが、なかなかよくならない。
ついに一歩も動けなくなる。
兄が有名な精神科医ということで、入院。
読んでるとかなり重症。もう一歩落ちたら、普通に自殺してたやろなって症状だった。
最初は棋士としての誇りから1ヶ月後の公式戦に出るつもりだった。しかし医者の話や兄の話、自分の現状の悪化につれ、断念を納得。ていうかそれどころの体調ではなくなった。
読んでいてわかるわぁって感覚に何度もなった
例えば
うつの時は死へのハードルが低くなるって話。
電車のホームにいて、ふらっとそれがごく当たり前のようやな電車に突っ込みたくなるとか。
決断力が異常に落ちるのもわかるわ。何も自分で決められない。店に入るか入らないか。試合を休むか休まないか。これは今もメンタル落ちたら見られる傾向やな。
あとこれ
「絶望と希望は表裏一体である。人は希望を感じるのと同じくらい、絶望を感じるのにもエネルギーがいるのだ」
たしかにうつひどくなると、感情が起こらなくなるっていうよな。
以下、印象に残ったところ
・アマチュア初段くらいの看護師さんと対局しようということになりやった。普段ならアマチュアとやる時全く感情は動かない。ルーティンの如く指し、平常心で終わる。しかし今回は攻められてヒヤヒヤする。上手く行きそうな時にうれしくなる。対局は勝ったがどっと疲れた。自分はプロ棋士ではなくなっていると思った。って話
・見舞いにいろんな棋士が来てくれた。でも元気でエネルギーに溢れている声の大きな人もいるとどっと疲れてしまうのだった。って話
・全く文章が読めなくなってしまった。文字を読んでも意味がとれない。あと将棋を見ても、一手前の手を忘れてしまって話にならない。ってやつ
・慶應大学病院はきれいだった。看護師さんもみんな綺麗だった。ここは顔採用ですか?そうなんですよわかります?という会話
・兄からとにかく散歩だと言われ、日向にむけてくねくねしながら歩いてた話
・ベットがリクライニングにならないから不便。後から聞いたら、首を吊らないようにらしい。ハンガーとかもなくて自殺防止の完璧なところらしい。
・7手詰めの詰将棋が解けなくなった話。
七手詰めとは、王手をかけ続けて玉が積むまで7手ということだ。俺は3手詰めに30秒から10分かかる。
しかし先崎は以前は1秒で解けていたのだという。それも13.14の頃から。
棋士は自分の対局した棋譜を再現できる。将棋の後の感想戦というものでは、再現しながら、これをこうやったらどうだったかと話すようになっている。
羽生善治などを見てみると感覚が麻痺してくるが、将棋棋士になれた時点で、皆とんでもない天才なのだ。
これが解けなくなった時に鬱は脳の病気だと実感したらしい。
結局5手詰めから始める、トレーニングをしていく。一瞬、棋譜を見てぱっと本を閉じ、頭で解いていく。以前は20手詰めくらいでそのトレーニングをしてたらしいのだが、それを行った。
ここからは普通に文を書いていく。結局退院して、徐々に良くなっていく。
はじめて行うことへのハードルはとても高かったが、それも体調が良くなるにつれなくなっていった。
しかし棋士として復帰できるかは不安だった。週に2回研究会を行うようにし、実力を取り戻していった。
しかし感覚が戻らない。その感覚まだ戻せるかどうかはこの本だけではわからない。というのもこの本は鬱の回復期に書かれた本だからだ。
最後は過去の話がある。
中学ではすっごいいじめられていた。いじめ全盛期で、授業中にバイクが校庭を走っている時代だった。学校に行かなくなり将棋会館で過ごすようになると、先生に呼び出された。
いじめられてるんですというとよくあることだ。学校に来ないとまともな大人にならないぞと言われた。こいつのいうことを聞いていたらまともな大人にならないと確信した。
学校に行かなかったから本をたくさん読んで知識を得た。
どもりが原因で嫌味を言われることがあったので、アナウンサーが通う学校に行き直した。会話が下手だったので、知り合いの落語家に金を払い話し方を学んだ。
心の支えは将棋だった。将棋が強いんだという自信から自分の人生を切り開いてこれた。
やれないはずはない。
こんな感じで終わる。
感想
面白かった。特に最後のアナウンサー学校とか、落語家に学ぶところとかええな。
何がええって人間は学べる生き物だということをわからせてくれるから。
1を10は無理でも1を5にできるのが人間だ。
あと、表情が二つの動画で違うのが印象的。
鬱は表情死ぬなぁ。