受け師の道/樋口薫の感想・レビュー

きっかけ

この本は木村一基(かずき)という棋士についての本だ。

この人は面白い。何が面白いってトークだ。お話がうまくてサービス精神が旺盛。

しかし将棋に対しての真摯で愚直さが、時折垣間見えて、俺はすごく好きな人だった。

よく彼は受け師と言われる。つまり守りがべらぼうに強いということだ。

攻めているつもりが気づいたら王が固くなって、攻めコマが全部取られているような感じだろうか。

話は変わるけど、木村は46歳にして王位のタイトルを取った。これは何度も挑戦者になるもタイトルが取れなかった木村の彼岸のタイトルであった。

その様子を将棋ファンになる前の俺はニュースで見てたんや実わ。

勝った直後にインタビューされてて、涙で言葉に詰まってた。

あんまり見た目が良くないなぁと思った記憶がある。

そんな木村一基について知りたいと思ったので読みます。

小さい時

とにかく暇さえあればよく喋る子。大人の話にも平気で入ってくる。

将棋が大好きで、多くの人が袖を引っ張りながら何度も対局をせがまれたという。

奨励会

奨励会には11年間いた。23歳でプロ入り、26歳までの年齢制限も近く、遅めと言える。

プロ入り後は爆発したように勝ちまくった。持ち時間の長い将棋が向いていたのだ。

というのも木村は受け将棋。もし失敗すれば負けてしまうという、普通の棋士がとても怖くてさせない気風だ。

持ち時間の短い奨励会の対局では、ミスをしやすくかったのだ。

コラム①揮毫

揮毫、きごうとは、筆で文字を書くことだ。

木村がよく書くのは「百折不撓(ひゃくせつふとう)」。つまり挫けないということだ。

タイトルに何度も挑戦し46歳という年で王位に輝いた木村にぴったりの言葉である。

ちなみに羽生さんは「玲瓏(れいろう」。透き通った心静かな気持ちという意味である。

これにぴったりだと思うエピソードが竜王戦の挑戦者を決める時、羽生と木村はあたった。しかしどうやっても勝ちのところで羽生が絶対にありえないミスをおかし、即死した。

この一手は羽生が一生忘れない一手としてよく話しているが、木村によるとその後の感想戦を冷静に堂々と行う姿に感銘を受けたという。

動揺を一切見せなかった。そしてその後の第二、第三局は羽生が勝ち、竜王になった。

これが超一流のメンタルコントロールなのだ。落ち着く練習を普段からする事で、次のパフォーマンスを落とさない。

俺も見習いたい。目の前のことに一喜一憂しない心じゃな。

タイトル戦

7度?くらいタイトル挑戦のある木村だが、深浦康市との7番勝負はすごかった。木村が3連勝して角番に追い込んだが、4連勝され負けたのだ。

これはその前に羽生善治竜王が渡辺明に全く同じことをされていた。

羽生さんでもそんなことあるのかぁーと思っていた木村だが自分が体験することになった。

6度目の挑戦で羽生さんに負けた日には、家に入れなかった。妻に何と言えばいいのかわからなかったのだ。

ちなみに対局中、多くの棋士が出前を頼む中、木村の昼飯は妻の手作り弁当だ。

あれほど目標にしてきたタイトルは年的にも絶望的(無冠で6度タイトル戦に挑戦したのは木村が初)。これから自分は何を目指せばいいんだ。。

そんな気持ちだった。近くの公園に座り、気がつくと朝日が昇っていた。

実はその日、妻も家で激しく泣いていたと聞かされるのはその3年後のことである。

その後、棋界は危機に陥る。対局中にソフトを使用したとして、三浦が、調査をされた。しかし結果は無罪。将棋連盟の遅速な対応に批判が集まった。

こんな危機を救ったのだ、藤井聡太である。三段リーグをなんと1期で突破し、29連勝をあげた史上最年少棋士である。

これにやり将棋教室は大満員になり、ニュースでも動向が逐一放送され、棋界は大盛り上がりになった。

7度目のタイトル戦は豊島将之(まさゆき)である。豊島は三連覇中だった佐藤天彦名人をやぶり、名人になったりとタイトルをめっちゃ取ってた若者だった。

ちなみに関大一高出身で関大中退らしい。

最初は二連敗したものの、勝ってタイトル。インタビューでは涙を流した。

その後、祝賀会や後援者による祝賀会が行われたがいずれも大盛況で木村の人望の厚さを物語っていた。

弟子の高野智史はその後の新人王戦で優勝。優勝者はタイトル保持者と記念対局が恒例だが、もちろん木村とあたることになった。これもまた感動的である。

感想

最近、俺はレジリエンスという言葉に関心がある。

レジリエンスとは「しなやかさ」という意味で、暖簾に腕押し?の意味があってるかはわからないが、暖簾のように生きていく力のことを言う。

無冠のままタイトルに挑戦し続け、46歳でタイトル獲得(初タイトル最高年齢)した木村はまさにレジリエンスの人かと思った。

しかし本書を読むうちに、木村はむしろ逆の人間だと感じた。

例えばタイトル戦では不眠だった。2日連続の対局なのだが、前日から寝れないので二晩の不眠ということもあった。

そのせいで昼間に疲れがどっときてありえない手を指して負けたこともあった。

タイトル戦に負けた日には潰れるまで飲みまくる。古くからの付き合いである、行方ひさし7段や、松尾歩と一緒に飲みまくり、涙を流す。
(対して、対局相手である羽生は勝った後もあっけらかんとしている)

形勢が悪いと歯を食いしばる癖があるので、歯が変形し、「入れ歯は作れないかも」と歯医者に言われる。

こんな感じなのだ。

レジリエンスではやり羽生善治が最強であると思った。まじで。

だけで腐らず努力し続け、諦めなかったという点では木村もはやりレジリエンスの人か。

木村の人柄が素敵でよりファンになった。

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